聖剣���説3 トライアルズ オブ マナ - レビュー

「聖剣伝説」って、確かにこんなゲームだった

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『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』は、1995年に発売された『聖剣伝説3』(以下、オリジナル)のリメイク作品だ。

「聖剣伝説」とはどんなシリーズなのだろうか? それを説明するのは、実はなかなか困難な作業だ。アクション性の高い戦闘やリングコマンド、マルチプレイなどいくつもの要素が思い浮かぶが、実際のところ具体的な共通点は「マナ」を中心とした世界設定くらいしかなく、各作品は実はとても多彩だ。しかし「聖剣伝説」に特別な思いを抱くユーザーは、確かに「聖剣伝説」というシリーズに特別な愛着と、何らかの共通イメージを持っている。

ここ数年で数々の大型リメイク作品が発売されたが、「ファイナルファンタジー」にしても「バイオハザード」にしても、いずれのシリーズも現在に至るまで継続的に新作タイトルが出続けている。つまり、シリーズの根幹となる要素は常に取捨選択と刷新がされ続けていたわけで、そこの延長線上にリメイク作品を定義することが可能だ。しかし「聖剣伝説」に関しては、2006年の『聖剣伝説4』以降はスマートフォンなどでいくつかのスピンオフ作品が出るにとどまっている。

ゆえに、2018年に発売された『聖剣伝説2 シークレット オブ マナ』と『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』は、単なるリメイクという以上に、「聖剣伝説」というIPとは何なのかを再考する作品だとも言えるだろう。なお、本稿の執筆に当たってはSteam版をプレイしている。

現代的なアップデートを試みつつ、レトロな感触を残したビジュアル

『聖剣伝説2』をリメイクした『聖剣伝説2 シークレット オブ マナ』は、ストーリーから戦闘のフィールまで、もともとの作品を驚くほど再現していたが、2Dのオリジナル版を3Dにそのまま移し替えたゲームデザインにはかなりの無理が見られ、ひとつの作品としては破綻をきたしていた部分も多く見られた。しかし、今作では多くの点において現代的なアップデートの試行錯誤が見られ、そしてその試みは明らかに成功している。

3Dでオリジナル版のシーンが描き直される。
3Dでオリジナル版のシーンが描き直される。

プレイアブルキャラクターのグラフィックは、HACCANによるリライトを経たデザインを基にオリジナル版の印象を再現しているし、���の輝きや毛髪などのディテールは、イベントシーンでついまじまじと見入ってしまう。2Dのドット絵で見ていたビジュアルが、あらためてこのようなものだったのかと納得できるという意味では、オリジナル版に親しんだプレイヤーほど新しい発見ができるだろう。

探索のフィールドも、モデリングは簡素ながらもテクスチャの使い方などが巧みで、全体としてうまく「マナの存在するファンタジックな世界」を表現している。近年のトレンドであるフォトリアルなリメイクとは対照をなしたアプローチだが、箱庭のようなミニマムさと、要所要所のモチーフを印象的に引き立てるフィールドデザインも相まって、むしろ「聖剣伝説」シリーズの魅力として機能している。

遠くに見える女神像に月明かりが射し込む、幻想的な森の様子。
遠くに見える女神像に月明かりが射し込む、幻想的な森の様子。

ただ、イベントシーンなどの動きや演出が少し不自然に見えたり、主人公達や主要キャラクターと比べて明らかにシンプルで使いまわしの多い住民などの汎用キャラクターのグラフィックが若干チープに見えたりなど、気になる点もなくはない。

ディテールが抑えられたNPCだと、ツルっとした質感が気になる。
ディテールが抑えられたNPCだと、ツルっとした質感が気になる。

ストーリーはオリジナル版ほぼそのままながら、2Dドットで描かれたグラフィックではそれほど違和感のなかったストーリーやセリフも、トゥーン調とはいえ等身の上がった3Dグラフィックで見ると多少の違和感が残る。追加の会話が増えたのはキャラクターに思い入れがあるプレイヤーにはうれしいが、別に休めるわけでもないのに戦闘終了後に「ちょっと休んでいきませんか?」といったようなセリフが時折入るのも、かわいらしくはあるが没入を削ぐ要因にもなり得る。

横方向への移動が多かったマップは、『ToM』ではベルトスクロール風に。
横方向への移動が多かったマップは、『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』ではベルトスクロール風に。

シンプルだが、カジュアルに楽しめる戦闘

戦闘の感触についても、アクション性があるもののターンバトルの要素が強かったオリジナル版とかなり変わっている。味方も敵もほぼ必中だった特技や魔法が、今作では敵が特技を発動する前にはフィールドに効果範囲を示す赤いマーカーが表示され、その範囲から離れることでダメージを避けることが可能になっている。回避行��と通常攻撃のコンビネーションは戦闘に一定のリズムを生じさせており、いわゆるアクションRPGらしさは、オリジナル版よりもずっと顕著だ。

赤いマーカー外に出れば相手の特技を避けられる。
赤いマーカー外に出れば相手の特技を避けられる。

現代のゲームとしては操作はかなりシンプルな部類に入るし、雑魚敵との戦闘が続くと単調に感じる場面もあるが、それゆえにアクションゲームが苦手なプレイヤーでも「うまく立ち回っている」気分を味わえるだろう。オリジナル版では敵に接近すると自動的にキャラクターの移動速度が遅くなり、離れると解除されるという仕様だったが、今回は戦闘範囲の境界に一定時間触れると戦闘から逃走したことになり、戦闘を避けてフィールドを移動だけしたい場合もストレスなく進められる。アクションそのものを楽しみたいプレイヤーには物足りない部分もあるかもしれないが、カジュアルにアクションを楽しみたいプレイヤーにも広く門戸が開かれているという点で、この敷居の低さも「聖剣伝説」らしさだと感じられた。

AIは自動で補助魔法を使ってくれる。
AIは自動で補助魔法を使ってくれる。

一方で、オリジナル版に存在した「魔法や必殺技を使うと必ず反撃をされるボス戦」などの仕様はなくなっており、戦闘に理不尽な場面を感じることはほとんどなくなった。操作していないときのキャラクターのAIもおおむねこちらの望んだとおりの挙動をしてくれ、オリジナル版と違って回復や補助の魔法なども適宜使ってくれるのはかなりうれしい変更点だ。ただ時折、致死的な攻撃があり、知らぬ間に仲間が死んでいるなど、オリジナル版と同じく理不尽さを感じる場面もあるものの、難易度はいつでも変更可能なので、ゲーム進行に詰まるようなことはないし、戦闘が物足りないと思ったプレイヤーのフォローとしても機能している。

クラスチェンジというシステムの輪郭も明確になった

クラスチェンジ周りの変更を観てみると、今回のリメイクがオリジナル版の何をブラッシュアップしたのかをハッキリと理解できる。というのも、「クラスチェンジすると何が変わるのか」という点の多くが可視化された結果、オリジナル版で体験した諸要素を、20年の時を経てあらためて確認できるからだ。

クラスチェンジによってキャラクターの衣装も変化する。
クラスチェンジによってキャラクターの衣装も変化する。

『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』では、通常攻撃におけるコンボの種類が増えるなど、クラスチェンジによる恩恵はオリジナル版よりも大きくなっている。その点を最も感じたのは、パラメータに関する仕様だ。レベルアップによるパラメータ上昇とともに、育成ポイントが付与され、各パラメータにポイントを割り振ることで自分の好みで育成をすることが可能だ。また、ポイントの割り振りにより各キャラクター固有の特技やアビリティを取得することができる。そのクラスごとに割り振れる育成ポイントは上限値が決まっており、クラスチェンジをすることでその上限値が解放される。

アビリティは「HPを何パーセント上昇させる」や、「MPを回復させる」など戦闘を有利に進めるための効果があり、各キャラクターのスロットに装備してある程度のカスタマイズが可能となっている。このアビリティスロットも、クラスチェンジによって増加する。こういった仕様により、クラスチェンジはかなりわかりやすく、キャラクターの強化と直結していることがオリジナル版以上に理解できる。

魔法は、育成ポイントの割り振りと精霊の解放によって習得できる。
魔法は、育成ポイントの割り振りと精霊の解放によって習得できる。

オリジナル版でもレベルアップ時に特定のパラメータにポイントを割り振ることができたのだが、曖昧な理解のままいつのまにか特技を覚えていったなあ、という思い出の裏でこのようなパラメータの動きがあったのかと、20年越しに気付くことができた。

ゲームの進行とクラスチェンジのタイミングも調整されており、レベルの上昇タイミングとストーリー上の転換点、あるいはボスが強くなるタイミングなどで何となく理解できる。リメイクにあたって追加されたクラス4は各キャラクターに光と闇属性の1種類ごとに���意されており、クラス3のどちらを選んでも同じクラスに辿り着くようになっている。とはいえ、経過してきたクラスによって習得スキルには違いが出るため、育成の多様性は損なわれていない。

クラスチェンジの経過は樹形図で確認できる。
クラスチェンジの経過は樹形図で確認できる。

また、本作ではクラスを1に巻き戻すクラスリセットが追加されている。クラスリセットに必要なアイテムはかなり手に入りにくいものの、すべてのクラスを見るために周回プレイを必要としない点もうれしい。「どのキャラのどのクラスでパーティを編成するか」というオリジナル版のコアの楽しみ方がより便利に、より拡張されている。

クラスチェンジによるステータスの変化も事前に確認できる。
クラスチェンジによるステータスの変化も事前に確認できる。

リメイク版追加要素について

オリジナル版で非常に印象的だった音楽は、全楽曲アレンジ収録されている。なかにはオーケストラアレンジされている曲もあり、全体として、等身が上がった現代の3Dゲーム的なビジュアルとは非常にマッチしている。オリジナル版といつでも切り替えが可能な点も良い。リメイクに当たって追加された要素として、エンディング後にはクラス4のクラスチェンジのほか、ダンジョンや新規のボスが追加され、育成したキャラクターのレベルを維持したまま強くてニューゲームを始めることができるようになる。また、フィールド内にいるサボテンくんを探してスタンプを集めていくことでショップでのアイテムの購入価格が安くなるなどの特典を得られるコレクション要素で、サボテン君というオリジナル版以降に発売された外伝作品の『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』のキャラクターが登場することには、シリーズをどのように捉えるかを考える際に意味のある登場だろう。

サボテン君を集めることでさまざまな特典が得られる。
サボテン君を集めることでさまざまな特典が得られる。

ほかにも、全体マップや目的地へのガイド表示など、細かいながらもプレイをスムーズにする要素がかなりの数盛り込まれている点は述べておきたい。何度も訪れる「黄金の街道」で向かう方向に迷うことはもうないだろう。追加要素を含めても、クリアまでの時間は15~20時間程度。丁寧なリメイクの結果として、オリジナル版の記憶を刺激するノスタルジックな側面を明確に残しつつも、きっちりと現代のゲームになるラインを維持している。「聖剣伝説」ってこういうものだよねという、全体の雰囲気としか言いようのない、思い出の中にある漠然としたイメージは、エンディングまでのゲームプレイを通して、多くのプレイヤーの共通認識として喚起されるだろう。フォトリアルでなくほのぼのとした世界を冒険し、気軽に遊べるアクション要素の強いRPG。「聖剣伝説」というIPをどのように考えるか、という点でも、意味のあるリメイクであることは間違いがないだろう。

思い出を刺激しつつも、新しいゲームとしても完成されている。
思い出を刺激しつつも、新しいゲームとしても完成されている。

長所

  • オリジナル版の感触を残したゲームシステム
  • オリジナル版を3Dにアップデートしたグラフィック
  • 印象的な旋律を損なわないリッチなアレンジの音楽
  • アクション性を増したわかりやすい戦闘システム

短所

  • NPCなどのモデリング
  • 戦闘やシステムのシンプルさ

総評

オリジナル版の要素を整理して新しいものに構成し直し、きっちりと作るべき部分を作り込まれたアクションRPG。「聖剣伝説」の面白さを、らしさを失わずに現代的にアップデートしており、一本のリメイクという意味以上に、「聖剣伝説」IPにとって重要な位置を占める作品となりそうだ。

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シンプルながら丁寧な、すぐれたリメイク『聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ』レビュー

8
Great
グラフィックなどはレトロさを感じさせるものの、全体のプレイフィールは驚くほどに刷新されており、そしてその刷新された表現型のほとんどはオリジナル版の『聖剣伝説3』にもともと存在していた要素と繋がっている感触が確かにある。リメイク作品としてはかなりの割合で成功している。
聖剣伝説3 トライアルズ オブ マナ