ドラマ『フォールアウト』シーズン1 - レビュー

サムズアップ

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「人は過ちを繰り返す」。これは、25年以上の歴史を持つRPG「Fallout」シリーズの冒頭で毎回登場する不吉なセリフだ。核による永遠の不毛地帯という設定のトーンには当てはまる警句かもしれないが、幸い、ビデオゲームのドラマ化に関してはその流れが大きく変わってきている。HBOの『THE LAST OF US』やNetflixの『アーケイン』に続き、Amazonも『フォールアウト』というかつてない傑作を獲得した。自信に満ち、完成されたポストアポカリプス作品である本作は、原作の精神を堂々と示しながら、同時に独特の魅力を持ったSFドラマとなっている。

Amazonが「Fallout」に関心を持った理由は簡単に理解できる。奇妙で、超暴力的なシーンが多く、時折風刺に富んだブラックジョークが飛び出すこの作品は、『ザ・ボーイズ』の隣に並べるのにぴったりだ。『ザ・ボーイズ』の強烈なシーンのようにとりわけ下劣だったり気色悪かったりすることはないが、『フォールアウト』は一貫して、放射能に汚染された地の闇をネタにシュールなジョークを展開している。

『ウエストワールド』のジョナサン・ノーランとリサ・ジョイが製作する『フォールアウト』は、原作ゲームの世界や歴史のなかで描かれているが、全8話のシーズン1にはゲームとの直接的なつながりはない。つまり、エラ・パーネル演じるルーシーをはじめとする、まったく新しいキャラクターたちとともにこの世界へ飛び込むのに、前知識は必要ないということだ。Vault-Tec社が200年以上前に建設したシェルターの一つ、Vault 33で育ったルーシーは、見事に再現された鋼鉄とコンクリートの壁の外にある世界を知らない。そのため彼女は、この地下に埋まった鋼鉄の缶のなかで何世代にもわたって保存されてきた、核戦争前の米国の“為せば成る”精神を体現した存在だ。

ゲーム『Fallout 3』の冒頭のように、ルーシーは父親(カイル・マクラクラン)の失踪をきっかけに地上へ踏み出すことになる。聡明にして活��、礼儀正しくフレンドリーな彼女は、閉ざされたVaultの扉の外に広がる、消し飛ばされた後のカリフォルニアを冒険できるような知識はまったく持っていない。パーネルが荒廃した景色のなかで演じる愉快でウブな楽天家っぷりは序盤のジョークに反映されているが、もっと重要なのは、それが魅力的なキャラクターアークの出発点となっていることだ。ルーシーはここから、命の価値が低く、嘘と欺瞞に満ちた世界を、しっかりと見据えていかなければならない。本作では陰に潜む悪人たちがしっかりと描かれているが、真の敵はウェイストランドそのものであり、ヒーローたちまでもが食うか食われるかの精神を貫くことを強いられている。

しかし、ルーシーはアウトサイダー(Vault居住者という意味ではインサイダーとも言える?)の立場であることからデフォルトの主人公に設定されているが、本作でもっとも魅力的なメインキャラクターはアーロン・モーテン演じるマキシマスだ。孤児だった彼は、中世の騎士をモデルにした軍事狂信者の勢力であるBrotherhood of Steel(B.O.S.)に身を寄せている。マキシマスは、B.O.S.のパワーアーマーを着た戦士たちのような堂々とした自信を欠いた、不器用で臆病な男であるため、この組織には不向きだ。この矛盾が、素晴らしいユーモアとドラマを生み出している。彼は行き当たりばったりの嘘をついてストーリーのなかで足掛かりを見つけ、本当の自分ではないものに自分をねじ曲げていく。その危険な嘘に必死で対応しようとする姿を見るのは、本作でいちばん興味をそそる時間だ。マキシマスを支持するのは必ずしも簡単ではない。それほどに欠点が多いキャラクターなのだが、その複雑さゆえに私はかなり入れ込んでしまった。

ルーシーとマキシマスは興味深い双対性を生んでいる。ルーシーはVaultの安全な生活しか知らないのに対し、マキシマスはウェイストランドの残忍な環境しか知らない。だがその一方で、本作にはもう一つはっきりとした対比がある。すなわち、グールを通して幻想的に描かれる核爆発の前と後だ。ウォルトン・ゴギンズが演じる放射線を浴びた250歳のミュータントは、クスリ漬けの冷酷かつ孤独な放浪者で、本作でもっとも惹きつけられる存在だ。ルーシーやマキシマスに比べると、グールのキャラクターアークは比較的浅いため特別な複雑さはないが、ゴギンズの全力の演技のおかげで間違いなく楽しいキャラクターになっている。

しかし、グールはゴギンズが演じるキャラクターの一人にすぎない。本作はたびたび戦前へと時代を戻し、のちにグールとなる男=クーパー・ハワードの人生を描き出す。クーパーは、レトロフューチャーなハリウッドで恵まれた生活を送る米国の映画スターだ。初めのうちクーパーは、やがて完全に失われてしまうその人間性を立証するためだけに存在しているようで、ゴギンズが一人で演じる二役のうち“退屈なほう”だと思ってしまうだろう。だが、このストーリーは徐々に強く興味を持たせる謎へと発展し、キャラクターに大きな目的意識を与えている。このプロットラインは原作ゲームの特徴である風刺を伝える場でもあり、反資本主義のメッセージが心に焼き付く。

クーパーの人生は、メインストーリーから比較的切り離されているように感じられるほどビジュアルや構造が大きく異なっているが、単なるバックストーリーよりもはるかに興味深い形で過去が現在に直接つながっている。この構造は本作の大きな強みだ。ルーシーが去ったあとのVault 33の様子など、初めのうちは無関係だと思われたものさえも、重要な構成要素となる。すべてが推進力を持っていて、とびきりのフィナーレに向かって突き進んでいくのだ。後半にはストーリー展開と勢い���バランスがやや崩れるエピソードがいくつかあるものの、それ以外は見事に構成されたドラマだった。

どのエピソードも、最初から最後までそれぞれ固有の物語を描いている。ルーシーと臓器収集ロボットの口論や、巨大なミュータントのサンショウウオとの遭遇など、これらは全体から見れば明らかに小さな要素だが、それ自体が十分にストーリーとして機能している。つまり、本作はRPGにある一連のクエストのように作られているのだ。これは、ほかの多くのストリーミングドラマにありがちな感傷的すぎるプロットや代わり映えのしないエピソードからのいい気分転換になるが、それを考えると、全8話が同時に配信されたのは不可解だ。これが毎週1話ずつ配信のドラマだったら、次の配信まで休むことなくソワソワしながら議論を楽しめただろう。

『フォールアウト』が直面した大きな課題は、ゲームの世界を実写化すること。だが、Amazonが多額の製作費を投じ、優秀なプロダクションデザイナーを採用したこともあって、ノーラン、ジョイ、ショーランナーのジェニーヴァ・ロバートソン=ドウォレットとグレアム・ワグナーは、素晴らしい仕事をこなしてみせた。バラエティ豊かな変わり者たちと1950年代の名曲に彩られた終末世界が、見事に実体化されている。どの空間も個性がいっぱいに詰まっていて、その多くはさまざまなアイテムや武器、おなじみのアートといった細部への驚くほどのこだわりを持って生み出されている。棚にはヌカ・コーラのボトルが散らかり、キャラクターはスティムパックで自らを治療し、Vault 33はどこをとっても完璧に近い。その背後にある工夫はゲームを知らなくても味わえるが、知識があればたまらなくうれしくなるものがたくさんある。

だが、群を抜いて楽しいのはB.O.S.のT-60パワーアーマーだ。実際に動いているのを見るのはとてもワクワクする。いかにもゲームからそのまま持ってきたような、原作に忠実ではあるがCGっぽいデザインになっているのかと思えば、本作のT-60はそうではなく、主に実物のプロップを使用することで、圧倒的な存在感と力強さが感じられるものになっている。本作はアクションに全振りしたドラマではないが、暴力的なシーンにT-60が絡むと最高に盛り上がる。さながらゲームに登場するパークの「Bloody Mess」が効果を発揮したかのように、愉快な血みどろのゴア描写が飛び出すのだ。

こうしたキャラクター、ロケーション、シチュエーションはどれも真の「Fallout」だと感じられる。そして確かに、ゲームに忠実で欠点のないプロダクションデザインもその一因ではあるが、本作の成功の大部分は、ロバートソン=ドウォレットとワグナーの働きや、「Fallout」らしいオリジナルストーリーを作ろうとした彼らの努力によるものだ。これは実写ドラマ『HALO』のパッとしない作りとは正反対だ。同作はアーマーのデザインやFPSのアクションシークエンスをゲームから流用しているにもかかわらず、原作の切迫感や壮大さを表現できていない。それに対して『フォールアウト』の脚本は、既存のストーリーのいずれにも頼ることなく、ユーモアを巧みに組み込み、風刺を効かせ、ゲームシリーズの主題も理解している。ゲームのキャラクターやカットシーンを実写で複製しただけのよくある作品になる可能性もあったのに、新しい媒体を使って熱狂的なファンのために「Fallout」の世界を豊かにし、新たな視聴者に向けては取っつきやすさを備えた、新鮮かつ本質を捉えたストーリーに仕上がっていた。

総評

ブラックジョークや超暴力的なシーンが満載の明るく愉快な終末世界を描いた『フォールアウト』は、『THE LAST OF US』と並んで、これまでのゲーム原作ドラマのなかでもとりわけ質の高い作品に仕上がった。見事に構成された本作では、癖の強い3人の主要キャラクターが巧妙にリンクしたストーリーラインをたどって、素晴らしいフィナーレを築いていく。その過程で、長年のファンは完璧なプロダクションデザインと細部へのこだわりをたっぷりと楽しめるが、一方で、原作の知識がない人にとって理想的な出発点にすることも決して犠牲にしていない。ジョナサン・ノーランとリサ・ジョイは、またしても特別な作品を生み出した。まぎれもなく“サムズアップ”に値する逸品と言えよう。

※本記事はIGNの英語記事にもとづいて作成されています。

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ドラマ『フォールアウト』レビュー 原作をコピーせずにその本質を捉えた、ゲーム映像化の歴史に残る逸品

9
Amazing
ブラックジョークや超暴力的なシーンが満載の明るく愉快な終末世界を描いた『フォールアウト』は、これまでのゲーム原作ドラマのなかでもとりわけ質の高い作品に仕上がった。
ドラマ『フォールアウト』シーズン1