サイバーパンク2077:仮初めの自由 - レビュー

非常にでこ���こだった傑作を、あらためて完成させるDLC

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※このレビューはPC版に拠ります。
※レビューの途中、DLC本編の導入部のネタバレがありますが、インジケーターを置いてあります。

わたしたちは現実のオフィス街を歩くとき、そこを歩いている人たちのことを、清潔できれいだと思う。それと同時に、企業がもっている、隠された悪意をひしひしと感じる。

オフィス街の、建物のデザインが、かれらを表象している。真っ平らでつるつるで、しみひとつないが、ぎらりと輝くガラスの照り返しと尖った角は、じつはひどく排他的で、人間を迫害してやまない。実際に金を動かす段になると、そのエッジィな感覚が、舞台設定としてたまらなくいい。

あるいは、繁華街を歩くときには、見た目はあんまり清潔じゃないかもしれないし、優しいのも乱暴なのもいるけれど、とにかくは人間の心をもった人々がいる。お店の意匠も看板も、てんでばらばらで、美的な統一感はないけれど、いろんな人が自由に、好きにやっているのだから、あたりまえのことだ。

つまり、街が人を表象し、その逆もまたしかりなのである。

DLCの発表をきっかけに、3年ぶりにナイトシティを再訪した。この街の住民たちは、みんな、いい演技ができる。そのへんを散歩すると、道端で世間話をし、煙草をすい、ドラッグをやる。だれかがだれかを殴ったり、抱きしめたり、殺したりしている。

これらの仕草の多くは、人間の行いのうちでも、かなり極端なものだ。しかし、それでも虚構のヴェールが裂けないのは、彼らがまさにこの街に、ナイトシティにいるからだ。ぎらぎらしたネオン、排水の異臭、運命に打ちのめされてぼろぼろになった哀れな敗者を見下ろす摩天楼。街と人とが相互を補完して、この虚構の世界を、まったく強固なものにしている。その美しさには、諸手をあげて感心するほかない。

「仮初めの自由」の舞台は、このナイトシティの一角、パシフィカの廃スタジアム周辺、ドッグタウンたる地域である。

ロアをおさらいすると、ナイトシティは北アメリカ大陸の西岸、ロサンゼルスとサンフランシスコの中間あたりにあるが、どの国にも所属していない自由都市だ。

いまをさかのぼること7年前、2070年。ナイトシティを併合しようともくろんだアメリカ新合衆国が、軍事侵攻を行った。その橋頭堡とした場所がここ、ドッグタウンであった。

この土地をめぐる政治的状況は、冷戦下の西ベルリンとおなじくらい、独自に複雑である。69年から70年にかけての統一戦争で出兵された新合衆国の軍人たちは、すばらしい働きでドッグタウンを占拠した。しかし新合衆国は同地の領有権を主張したのち、一転して、武力に頼らない外交路線に切り替えた。

停戦は成ったが、派兵された軍人たちは不満を抱き、及び腰の新合衆国��ら離反した。地政学的なむずかしさもあり、この動きが、上手くいってしまった。結果としてドッグタウンは、飛び地の新合衆国領の内部に独自の自治を獲得するにいたった、軍閥の小国家のようなものになってしまった。……なんだか、司馬遼太郎の小説みたいだ。

――DLCメインストーリー導入部のネタバレ、ここから――

DLCの物語がはじまるのはそれから7年後、2077年。新合衆国の大統領が搭乗している航空機が、大気圏外を航行中、どこからともなく飛んできたミサイルに被弾した。ここまでは、公式シネマティックトレーラーにあるとおりだ。

例によってきな臭い仕事をこなしながら、ナイトシティでの生活を満喫していた主人公、Vは、ミサイルを食らい、ナイトシティに落ちてくる最中の航空機の機内から、ある経路を通じて、メッセージを受け取る。

そのメッセージの発信者は、大統領付きのハッカーである。彼女はネットごしにVを誘い、堅牢な検問をくぐりぬけて、ドッグタウンへと導く。というのも、エンジンが破損した大統領の航空機は、よりにもよってまさにここ、政治的にねじれきった状況にあるドッグタウンに、落ちてくるというのだ。

ドックタウンのなかにある、スタジアムの回廊に出ると、怪しげな露天――というには屋根があるから違うけれども、とにかく、正式なショバ代はたぶん払っていない感じの店が並んでいる。ものすごく活気があって、人々が思い思いのことをしている。ショバ代を払っていたとしても新合衆国にではなくて、先述した軍事勢力にだろうが、そんなことは気にしていられない、ぐずぐずしていると、大統領の乗った船が落ちてきてしまう。

Vは人混みをかき分け、かつて存在したフットボール・チーム、ナイトシティ・ナイトホークスの選手たちがまさにタッチダウンを決める瞬間を象った像のそばを駆け抜け、なかば崩落したスタジアムの瓦礫を登っていく。いちばん高くに来たところで、成層圏外から落ちてきた大統領機が、煙を吐きながら滑空しているのを目視する。不時着は免れないが、軌跡は安定しているから、助かるかもしれない――そう思ったとたん、どこからともなく放たれた、新たなミサイルが夜空を切り裂き、大統領機に着弾する。その瞬間、ハッカーとの通信が途絶し、大統領機は焔の玉となりながら、ドッグタウンの大通りへとタッチダウンする。カメラが引いて、プレイヤーに操作が戻ってくる。

Vがつぶやく。「大統領を救うんでしょ……どうってことない……」

ここで、画面右下部に小さく、『PHANTOM LIBERTY』のタイトルがカットインする。ああ、誰がこんなことを? 大統領は無事だろうか。ここはまがりなりにも新合衆国の領土ではなかったか――いや、考えている暇はない。露出した廃水パイプのなかを滑り降り、薄汚れたごみ溜めのなかに飛び降りる。1キロメートル先にあるクエストマーカーをめ��し、大統領を救うために、パニックに陥った人々のあいだをかきわけて、走らなければならない!

――ここで筆者はゲームをポーズし、大きなため息をついた。またしても、CDPRがやってくれたのである。やっぱり、こんなに演出がかっこいいビデオゲームは、ほかにちょっと思いつかない。……なんだか、文体が作中のBD批評誌みたいになってきたな。

――DLCメインストーリー導入部のネタバレ、ここまで――

これ以降に展開されるメインストーリーは、宣伝文句にあるとおり、ポリティカルなスパイアクションものと言っていい。要所での盛り上げ方や演出のすばらしさ、役者の演技のうまさは――イドリス・エルバ最高!――本篇同等のクオリティか、それ以上を維持している。それがどう良かったのか、ぜひとも語りたいけれど、これ以上のメインストーリーへの言及は避けておこう。ものすごくざっくり感想を言うと、今回も大人の鑑賞にたえる、苦味のきいた物語だった。

さて、環境の話だ。はっきり言うと、ドッグタウンの景観はナイトシティに劣る。ナイトシティの豪奢な、無秩序きわまる繁栄ぶりから一転して、ドッグタウンは舗装すらまともにされていない、錆びた鉄とトタンとドラム缶でつくられた、砂埃の街だ。ナイトシティの純粋な拡張を期待しているプレイヤーには、ちょっと拍子抜けするものだろう。実際のところ、筆者も一見して、あれ、あんまりこの街はナイトシティほどかっこよくないな、と思った。

「ナイトシティほどでは」というだけで、よくないわけではない。<br />
「ナイトシティほどでは」というだけで、よくないわけではない。

しかしメインストーリーに引っ張られてゲームをプレイし、ロアの知識がついてくると、ドッグタウンの味がわかるようになってきた。つまりこのDLCが目指したのは、自由資本主義の西ベルリンから、軍閥社会主義の東ベルリンに密入国するような体験なのだ。資本の手が入らないから、建物はみんな壊れかかっているし、華々しい商売も、金の匂いもない。

そのかわり、モールの残骸やビルディングの割れ目、手作りのスラム街に人々の生活の気配があって、日差しはナイトシティより眩しく、空気はきれいな気がする。これはまたしぶい路線に舵を切ったものだ、と思う。ドッグタウンのからりとした景観は、ナイトシティの濃厚な油を流してくれる、すばらしいパレット・クレンザーである。

サイドクエストについて。すこし、弱いかなと思った。弱いというのは、もうちょっと出来事が起きて、盛り上げてくれるのかなと思ったら、あんまり発展せずに終わってしまう、ということである。もちろん、すべてのサイドクエストが弱いわけではない。よく思い出してみると、ドッグタウンの内部で起きるクエストに関しては、なかなかの出来だったと思う。

しかし、なつかしいナイトシティに戻ってくると、ちょっとしたフレーバー程度で終わってしまうものが、いくつかあった。たぶんこれらは、本編とつづけてプレイすることを意図して追加されたものだろう。筆者のように本編から間を開けて、DLCコンテンツのみを集中してやってしまうと、すこし物足りなく感じてしまうかもしれない。

ナイトシティの、たしかメガビルディング10号棟のそばにあるこの自動販売機くんにも、ちょっとしたサイドクエストが追加されている。わりと好きなキャラだし、話が追加されているのはいいのだけれど、サイドクエストというには、ここからなにも起こらなさすぎる<br />
ナイトシティの、たしかメガビルディング10号棟のそばにあるこの自動販売機くんにも、ちょっとしたサイドクエストが追加されている。わりと好きなキャラだし、話が追加されているのはいいのだけれど、サイドクエストというには、ここからなにも起こらなさすぎる

さらには、ふたつの新コンテンツが、たんなる繰り返しに陥っている。ひとつは、エル・キャピタンというカー・ディーラーのもとへ、盗難車を運んでいく仕事である。はじめのうちは盗んだ車を乗り回しながら、なつかしいナイトシティをあらためて観光できて楽しかったけれど、何台も納車するうちに、さすがに飽きてしまった。

もうひとつには、ドッグタウンに航空投下される補給物資を自警団から奪うイベントもあるのだけれど、物資が落ちてくる場所とスポーンする敵の種類がだいたいおなじなので、状況が似たようなものになり、何度かやるうちに甲斐を感じなくなった。飽きたらそれ以上はやらなくていい、という類いのコンテンツではあるのだが。

グリッチについて言えば、ゲームが進行不可能になるほどのものはなかったが、微妙に没入感を削ぐ、演出上のまちがいをふたつ見つけた。ひとつには、ある潜入捜査の際、とあるパーティーに紛れ込むシーンがあるのだけれど、ばれないように紛れ込んでいるにもかかわらず、バーカウンターの席に腰掛けた仲間が、銃を握りしめている。そんなものをちらつかせていたら、あやしまれるだろう。

あるいは、このパーティーとおなじ会場で、後日、ある人物の葬儀が行われる。その葬儀のシーン自体に問題はない。ただ、先述したパーティーの最中に、ある有名アーティストが短いパフォーマンスを行った。それを保存したブートレグのBDを、Vの自室で鑑賞することができるのだが、その映像における会場の様子が、パーティーではなく、葬儀のものになってしまっていた。

とはいえ、うれしい変更も、いくつもあった。発売後のアップデートと「仮初めの自由」に先駆けたアップデート2.0の双方を含むが、いい機会だから、ここでまとめて語っておく。まずは「ワードローブ」機能の搭載。これは、プレイヤーのインベントリに入った服飾アイテムを、スキンのような形で、すべて保存するものだ。服飾アイテムそれ自体をインベントリから売却しても、そのアイテムのスキンをいつでも身につけることができる。また、主人公であるVの外見も、リパードクか服屋さんで変更することができるようになった。

キアヌ……じゃなかった、ジョニーもちゃんといます。<br />
キアヌ……じゃなかった、ジョニーもちゃんといます。

パークシステムの変更のうち、いちばん英断だったのは、割り振ったポイントを返還できるようにしたことだ。なにせ本篇だけで60時間以上のボリュームがある作品だから、べつのビルドを試そうにも、気軽にはできなかった。それがこの変更で、いろいろなプレイスタイルを試せるようになった。新たに追加されたパークツリーは、七割ほどが腕部サイバーウェアを強化するもので、少なくともゴリラアームとマンティスブレードには「フィニッシャー」が用意されている。これがじつにかっこいい。

サイバーウェアまわりのアップデートは、もともとそんなに悪いものではなかったけれど、アップデートを経て、深みがでた。いくつかの新しい生体パーツが追加され、もとあったものにも変更が加えられている。それらの能力値が複雑に絡み合っており、ビルドを考えているだけで時間がどんどん過ぎていく。制限も見直されていて、固有の能力値制限に変更された。強いサイバーウェアには重たいコストがかかり、全体のバランスを考えてビルドを組むことが必要になった。いろいろな組み合わせを考えるのが、古典的なMMOのように楽しい。

戦闘関連のアップデートもなかなかいい。3年前の時点でも、これはRPGであって、アクションが主眼ではないのだという言い訳が立つくらいにはよくできていたけれど、やっぱり言い訳ではあった。今回はまずAIが改善されている。敵対状態にあるNPCが自然物のカバーをうまく用いるようになったし、サンデヴィスタン(作中に登場する、身体能力を一時的にブーストして「バレットタイム」を発動するサイバーウェア)を用いながらメレー攻撃を仕掛けてくるやつなんかもいて、なるほど、相手が使うとこんなふうに見えるのかと感心した。車両に乗車しているあいだにもサイドアームを撃てるようになったし、サイバーサイコシスのふりをしてNCPDを倒しまくっていると、あの伝説の特殊部隊、マックス・タックが出動するようになった。回復アイテムにクールダウンがついてスパムできなくなったので、ごり押しが難しくなり、ゲームプレイにめりはりができた。

当然と思ってはいけないのが、ローカライズの品質である。いくつかの部分を英語のテキストと付き合わせて読んでみて、本篇同様に、すばらしい仕事が行われていることを確認した。声優陣の演技も、もはや洋画の吹替版と遜色がない。それどころか、そもそもの会話文が軽妙かつ洒脱なので、もっとこの物語を見て、聞いて、読んでいたくなる。とくに女性のVの声を担当している清水理沙さんは、3年前よりも上手くなっているのではないか。はったりをきかせたり突っ張ったりするところはお姉さんぽく、状況が手に負えなくなってうろたえるところは少女っぽく演じていて、しかもオーバーアクティングに陥っていない。ナイトシティの混沌にもまれて揺らめき、成長していくVのイメージにぴったりだ。

本篇に登場するキャラクターとのダイアローグも、なかなかの量が追加されている。やっぱりジュディは最高にキュートだ。……このチャットでは泥酔しているようだが。<br />
本篇に登場するキャラクターとのダイアローグも、なかなかの量が追加されている。やっぱりジュディは最高にキュートだ。……このチャットでは泥酔しているようだが。

総括すると、「仮初めの自由」は、『サイバーパンク2077』という作品を完成させた。3年前の時点では、ロアとストーリーと演出とグラフィックが規格外に面白く、実装と戦闘がまあまあ。六角形のグラフにすると、非常にでこぼこな傑作だった。3年前のわたしが満点をつけたのは、ユニークですばらしい体験が欠点を充分に補っている、エッジィな作品だと感じてのことだった。

そして2.0パッチを加えた現在のビルドは、高い評価におごることなく、自作の欠点を見つめてそれを直すという、言うは易いがなかなか出来ないことを、見事にやってくれた。DLCをそれ単体で見たときには、上記にしたような弱い部分もあるけれど、メインストーリーの楽しさは充分で、ドッグタウンという街の独自性がしだいに面白くなってくる。本編とひとつづきではじめてプレイするなら、2.0パッチとあわせて、本編の満点がより盤石になる。DLC単体で評価するならば、下記にする点数で、といったところだろう。

長所

  • 魅力的なメインストーリー
  • すばらしい演出
  • 欠点を直すアップデート

短所

  • 演出上の細かなまちがい
  • いくつかのサイドクエストの弱さ

総評

「仮初めの自由」は、魅力的なメインストーリーとロア、グラフィックと演出で、すでに豊かだった『サイバーパンク2077』の世界をさらに広げている。単体で見たときには弱いサイドクエストが散見されるが、本篇の補強と考えれば悪くない。このDLCと2.0パッチをもって『サイバーパンク2077』が完成し、欠点の見当たらない、完全な作品となったことは喜ばしい。

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In This Article

サイバーパンク2077:仮初めの自由

CD Projekt Red | 2023年9月26日
  • Platform / Topic

『サイバーパンク2077:仮初めの自由』レビュー

8
Great
魅力的なメインストーリーとロア、グラフィックと演出で『サイバーパンク2077』の世界を広げる存在。DLC単体としての弱さもあるが、メインストーリーの楽しさは十分で、本篇の補強と考えれば悪くはない。
サイバーパンク2077:仮初めの自由