苦境にあるゲームクリエイターたちを支援すべく、「Among Us」の開発元が動き出した

ゲーム業界が厳しい状況にあるなか、小規模なデベロッパーたちは資金調達に苦しんでいる。そこでファンドの設立によって支援に動いたのが、人気ゲーム「Among Us」の開発元であるInnerslothだ。
A still image from the game Project Dosa.
Outerslothの支援を受けているOuterloop Gamesが手がけた「Project DOSA」のワンシーン。Courtesy of Outerloop Games

初めてリリースされてから2年後の2020年、Innerslothが開発したソーシャル推理ゲーム「Among Us」は、世界で最もダウンロードされたモバイルゲームになった。Among Usは小規模なゲーム開発会社であるInnerslothに数百万ドルの収益をもたらし、会社を存続させるために必要な資金だけでなく、同じインディーゲーム業界の企業が独自のタイトルを立ち上げるために十分な資金も獲得したのである。

そしてInnerslothは、今年6月上旬に発表された新しいファンド「Outersloth」によって、インディーゲームの開発会社が従来のゲーム開発サイクルの危機から逃れるための支援に乗り出したのだ。そしてOuterslothには、さらに多くのことをする体制がすでに整っている。

Outerslothは、こ​​の種のファンドとして決して初めてのものではない。「Indie Fund」や「Moonrise Fund」など、小規模なクリエイターへの支援に重点を置いたファンドがすでに存在している。だが、Outerslothは、ゲーム業界がかつてないほどの混乱に陥っている時期に登場したのだ。

ゲーム業界を持続可能なものにするために

この1年だけでもゲーム業界では数千人の雇用が失われ、Arkane AustinやPieces Interactive、Die Gute Fabrikまで、大小さまざまな開発スタジオが閉鎖されている。大手企業に買収されたTango Gameworksのような小規模なデベロッパーでさえ安心とはいえない。マイクロソフトは今年5月、Tango Gameworksの閉鎖を発表した。

多くのゲーム開発会社が予算を削減している一方で、Innerslothは成長を続けている。こうしたなか、Outerslothはゲーム業界全体をより持続可能なものにするための取り組みであると、Innerslothのコミュニケーションディレクターであるヴィクトリア・トランは語る。

「Outerslothは、自立を考えているものの少しの後押しが必要なインディーデベロッパーを支援する取り組みです」と、トランは言う。「デベロッパーたちに成功する機会を与え、できれば次のゲームで十分な利益を得て、再び資金とパブリッシャー(ゲーム会社)を探すサイクルに戻る必要がないようにすることを目的としています。こうしたプロセスはとても消耗してしまう場合があるからです」

Innerslothに長年にわたって勤務しているスタッフは、このことをよく知っている。小規模なゲーム開発スタジオは、大規模な開発企業にはない問題に直面しているのだ。

経験が不足していることもあれば、ときにはあまりに奇抜で実験的なゲームをつくってしまい、投資してくれそうな人たちにとって大ヒットするタイトルに見えないこともある。ゲームに求めている資金が少額のデベロッパーは、資金提供者の関心を引く価値がないと受け止められることもあるだろう。Among Usでさえ、初期には資金を見つけることができなかった。

「つくらなければならない、またはつくるべきゲームというものはたくさんあります」と、トランは言う。「しかし、そうしたゲームに対する本当の資金がまったくないのです」

“次のゲーム”を想像する長期的な賭け

Outerslothはブロックチェーンや人工知能(AI)を用いたゲームは対象にしていないが、どのようなデベロッパーを支援するかについての厳格なルールは設けていない。Outerslothのモデルは非常に自由だ。Outerslothの関係者は、支援するゲームについて説明することを誰も求めていないのである。

そしてOuterslothのウェブサイトでは、開発企業のStrange Scaffoldによる6月に発表されたプロジェクト「Clickholding」の売り込みにおいて、「部屋全体が噴火するような、非常に動揺させる不穏なストーリー」と評している。Outerslothのチームにとって、これは“いい賭け”だった。

このような契約は、これまでに自分たちがゲーム業界で見てきたような悪質な契約を、インディーデベロッパーが避けるうえで役立つと、トランは言う。多くのレコーディングアーティストが最初のアルバムで受け取る前払い金と同様に、こうした契約には小規模なゲームスタジオが費用を回収することを難しくしてしまう条件がしばしばあるのだ。

このため、いったん出資者を確保できたとしても窮地を脱したわけではなく、マーケティング費用を支払ったり、利益の一部をパブリッシャーに渡したりしなければならない場合がある。「わたしたちはゲームがリリースされたら、リリース時には少なくとも収益の一部を受け取りたいものです。そうでなければ、スタジオとして生き残ることはできません」と、トランは言う。

Outerloop Gamesも、この厳しい状況をなんとか乗り切ろうとしているスタジオのひとつだ。すでに「Falcon Age」やヒット作「Thirsty Suitors」などをリリースしていたが、新タイトル「Project DOSA」の開発資金を調達する時期が来たときになって、開発者たちは「現時点の資金調達の環境は厳しい」と感じたのだと、共同創業者のチャンダナ・エカナヤケは語る。「予算はさらに低くなり、また同じ資金調達の選択肢をめぐって競争するチームが増えているのです」

そして最終的には、Outerslothが提示した契約が最適だった。「基本的にOuterslothはわたしたちに資金を提供し、わたしたちは収益を共有するという、非常にデベロッパーに有利な条件での契約です」と、エカナヤケは説明する。また、これは“自給自足”を志向するチームにとってはすばらしい選択肢であるとも、エカナヤケは言う。

Outerslothが、ゲーム業界の現在のビジネスモデルに取って代わることはないだろう。だが、現在のゲーム業界が必要としているもの、すなわちほかのスタジオが“次のAmong Us”となるタイトルを制作するためのライフラインを提供しているのだ。

「わたしたちは持続可能なゲーム業界を、本当に促進することができます」と、トランは語る。つまり、デベロッパーを犠牲にして利益を最大化するようなモデルから遠ざかるということだ。これは現在のゲームの先を見据えて、“次のゲーム”を想像する長期的な賭けと言えるだろう。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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