43 年後に明かされた『Wizardry』の真実

私は『Wizardry』の元となったテーブル トーク RPG の大ファンなのですが、2022 年にリメイク版『Wizardry』制作チームに加わったとき、このシリーズについては学ぶべきことがたくさんあると感じました。プレイを重ねるにつれて、その重要性と現代のユーザーに届けるという���業の大変さを理解するようになったのです。


Digital Eclipse は史上最も重要な RPG のひとつをどのように継承し、磨きぬいたか


1981 年、Apple II 向けに発売された『Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord』は、コンピューター ロールプレイング ゲームというジャンルを定義した作品です。ダンジョンを探索してモンスターを倒し、レベルを上げていくこのゲームプレイは、その後のほぼすべてのロールプレイング ゲームに影響を与えました。

当社のシニア エンジニアであるイアン シャーマン (Ian Sherman) は、このゲームの重要性を誰よりも理解しています。彼は、Xbox で発売中の完全リメイク版『Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord』の開発を指揮しました。

「『ファイナルファンタジー』の坂口博信氏や『ドラゴンクエスト』の堀井雄二氏といったデザイナーたちは、『Wizardry』から影響を請けていると話しています」とイアンは語ります。「今、実際に『Wizardry』をプレイしてみると、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』、『ポケットモンスター』などといったタイトルが、いかに『Wizardry』からインスピレーションを受けているのがよくわかります。あの感覚を再現しようとしる人が多いのも納得できます」

シリーズ 1 作目となる『Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord』の最新バージョンが発売されるのは、じつに数十年ぶりのことです。Digital Eclipse と 『Wizardry』のオリジナル パブリッシャーである Sirtech、そして現在商標を保持しているドリコム(『Wizardry』の新作を日本で発売)の 3 社による取り組みによって、1 作目をリメイクするための法的許可の網を解きほぐしました。このリメイク版ではグラフィックやサウンドが一新され、快適に操作できるよう現代的なアップデートが施されていますが、これらはすべて 1981 年に発売された Apple II 版オリジナル ゲームのソース コードに基づいて開発しました。


オリジナル コードと現代ゲームプレイの融合


「Digital Eclipse は歴史家であり、歴史的意義のあるものを保存することが大事だと考えています」とイアンは言います。「私たちは Pascal で書かれた Apple II 版『Wizardry』のソース コードを入手し、このコードを現在のハードウェアで動作させることが目標でした。しかし、Pascal は 1970 年に作られたプログラミング言語で、もはや現代では使われていないため、このこと自体が挑戦でした」

幸運なことに、イアンはデジペン工科大学の卒業生であり、リメイクやリマスターについては知識がありました。彼は 2005 年に Digital Eclipse で働き始め、クラシック ゲームを復活させる「コード フォレンジック」と呼ばれるプログラムの解析作業を楽しんで進めました。

当初は研究目的で始めたものでしたが、最終的にはこれが製品版へと導かれていきます。「Apple II 版のオリジナル ゲームを Unreal Engine に移植しました」と彼は語ります。「実際に遊んでみたところ、その体験は Apple II 版『Wizardry』そのものを遊んでいるかのようでした。これが始まりで、そこから本作を作り上げていったのです」

つまり、リメイク版におけるすべての要素、難易度やダイス ロール (判定時におけるランダム性) はオリジナルのコードをそのまま再現し、Apple II 版のダンジョン探索体験もそのまま再現しているのです。その証拠に、まったく新しい 3D ビジュアルで GAS DRAGONS や FROST GIANTS と戦闘している間も、ゲームプレイ中はいつでも Apple II 版のグラフィックを見ることができます。

イアンは続けます。「オリジナルの過酷なゲーム バランスを残したかったのです。『DARK SOULS』のようなゲームにインスピレーションを与えた『Wizardry』の特徴は、その難易度とゲームの永続性にあります。だから、どうしてもオリジナルの体験をそのまま味わいたい場合は、いくつかの快適な追加機能をオフにできるようにしました」

Apple II 版『Wizardry』を忠実に再現しながらも、モダン プレイヤー向けに遊びやすく作り直すには、深いレベルのデジタル考古学が必要でした。「エンジニアとして、コードを見るだけで当初のクリエイティブな意思決定の流れがわかりました」とイアンは語ります。「『Wizardry』のコードはキレイに書かれていたので、読みやすく理解しやすいものでした。半分だけ実装された機能や削除された機能が手に取��ようにわかったのです」

Apple II 版『Wizardry』のコードを調べたイアンは、ゲームを隅々まで調べ尽くしたプレイヤーの目からも隠されていたすべての情報を見ることができました。RPG が 40 年間進化してきた中で、プレイヤーはこの情報を見ることができるのではないかと期待していました。そこで私たちは、この情報を公開することにしたのです。

Apple II 版ではゲーム中、敵に遭遇したときは最初の段階で未知のモンスターとして扱われ、鑑定を試みるためにダイス ロールをします。「ここで私たちは考えました。オリジナルの動作を妨げることなく、このシステムを拡張する方法はないだろうか ? と」

その議論の結果、全く新しい「モンスター図���」が生まれました。迷宮で遭遇する 100 を超えるモンスターに関する詳細なビジュアル ガイドです。このモンスター図鑑は、日本の『Wizardry』シーンで多大な貢献をしてきた、小説家 / ゲーム ライターのベニー松山氏に解説テキストの執筆を依頼し、各クリーチャーについて独自の伝承が記載されています。

オリジナルのコードに潜む詳細が明らかになった箇所は、戦闘にも及びます。イアンは、Apple II 版『Wizardry』では戦闘に関する情報が多く隠されていたため、特にわかりにくいと感じた可能性があると指摘しています。

「そもそもロング ソードとはどんな武器なのでしょうか? ショート ソードやダガーより高価なのは確かでしょうけど……。Apple II 版で教えてもらえたのは、それぐらいの情報だけなのです」とイアンは言います。「武器が与えるダメージや攻撃回数、命中率といった武器としての性能は何もわかりません。でも、そういった情報はプレイヤーにとってとても重要です」

このリメイク版『Wizardry』では、戦闘中にこうした情報が表示されるようになり、より賢い選択をするのに役立ちます。罠が仕掛けられた宝箱を解除するときも、成功率を確認できるようになりました。

オリジナルから遊んでいる冒険者なら誰もが知っていることですが、こうしたデータを知ることと実際に生きて帰ってこられるかどうかはまったく別の話です。どんなに情報を持っていたとしても、パーティーの準備が整わないうちに迷宮の奥まで進んでしまうと、悲惨な結末を迎えてしまうでしょう。

���Wizardry: Proving Grounds of the Mad Overlord』の最終的な目標は、シリーズの持つ 40 年の歴史を守りつつ、現代的な体験を提供することです。

※この記事は米国時間 5 月 23 日 に公開された“Revealing the Secrets of Wizardry 43 Years Later”を基にしています。