龍が如く8 - レビュー

ターン制コマンドバトルとしての「龍が如く」新境地を開いたRPG

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『龍が如く8』は驚異的に完成度の高いRPGだ。とてもアクションアドベンチャーゲームとして始まったシリーズとは思えない。前作の『龍が如く7 光と闇の行方』で初めてターン制コマンドバトルが採用されたが、今回の出来栄えは格別だ。戦略性とアクション性を両立したターン制コマンドバトルとして、本作は「龍が如く」の新境地を開いた。

春日一番と桐生一馬のダブル主人公で描かれるストーリーも、これまで以上にふたりの内面に迫るものとなっている。どん底に突き落とされた春日がどのように再起していくのか。死を覚悟した桐生は何を思うのか。現代社会を「生きる」ことを真摯に問う作品である。

探索しがいのある高密度な街並み

実在の繁華街をモデルにした街を舞台にストーリーが展開される「龍が如く」シリーズ。本作でメインの舞台となるのは、ハワイ・ホノルルシティ。シリーズ初の海外舞台となるハワイは、『龍が如く7 光と闇の行方』に登場した横浜・伊勢佐木異人町の3倍の広さを持つ。そもそも横浜・伊勢佐木異人町がシリーズでお馴染みの東京・神室町の3倍の広さだったため、ハワイ・ホノルルシティの広さは圧倒的だ。

美しい海を堪能できるアロハビーチをはじめ、巨大なショッピングセンターや日本人街など、ハワイ・ホノルルシティはいくつもの顔を持つ。各地を巡る春日たちの冒険は、まるで仲間と旅行に来たかのような風情がある。澄み切った青空で仲間たちと泳ぐ海は、なんと美しいことだろうか。その一方で、夕日に照らされた浜辺を見れば不思議と日本が恋しくなってくる。

作り込まれたハワイの街並み。
夕日が輝くハワイのビーチ。

日本で見られなかった風景を見る楽しみがあるほか、ハワイの街ではさまざまな体験をすることができる。メインストーリーの目的地としてさまざまな場所を訪れることになるが、直行せずに街を探索すれば様々な発見がある。各地を回って装備品やアイテムを買い揃えたり、シンボルエンカウントの��魚敵を倒してレベルを上げたり、ハワイの住民たちと繰り広げられるバラエティ豊かなサブストーリーをこなしたりとさまざまな探索要素がある。

仲間と飲食店で食事をすることで発生する「宴会トーク」や街中で歩きながら談笑する「パーティーチャット」は前作にもあったが、今回はハワイにちなんだ会話が多い。過去作と変わらないキャラクターの性格があらわれる会話もあれば、旅先で新たに判明する意外なプロフィールもある。日本人に馴染みの深いハワイをシリーズ初の海外舞台とすることで、いつもと少しだけ異なる非日常感を描くことに成功した。

飲食店で仲間と繰り広げる宴会トーク。
キャラクターの人となりを知ることのできるパーティーチャット。

サブストーリーは膨大な数が用意されている。配達員として制限時間内に食べ物を届ける「クレイジーデリバリー」などのミニゲームの導入になっているものもあれば、春日の頭に住み着いてしまった雛鳥の親鳥を探すような独自のストーリーが展開されるものもある。前作から再登場した巨大ロボット掃除機とのサブストーリーは、プレイしていて思わず笑ってしまった。シリアスなメインストーリーとは異なり、ぶっ飛んだ展開がサブストーリーの魅力となっている。

街の作り込みは探索し尽くせないほど密度が高い。イベントやサブストーリーが発生するだけでなく、仲間にしたモンスターでチームを組んで戦う「スジモンバトル」がハワイ・ホノルルシティの全域で行われる。ゴミだらけの島を一流リゾートへと育て上げる「ドンドコ島」もまた、本編とは異なる感覚のミニゲームだ。スジモンバトルとドンドコ島それぞれが別のゲームであるかのように、膨大なボリュームとなっている。リアルに街並みを再現しつつも、独自の遊び要素を盛り込んだ「龍が如く」らしいハワイを描いてみせた。

配達人としてハワイ中を駆け巡る「クレイジーデリバリー」。
寂れた島を一流リゾートにする「ドンドコ島」にはガチャピンとムックの姿も。

カスタマイズ豊富な育成システム

キャラクターはレベルとそのキャラクターのジョブのランクによりステータスが上がっていくが、主人公と仲間の関係性の強さを示す「絆レベル」を上げることで追撃攻撃や連携攻撃が発生するようになる。絆レベルはバトルだけでなく、宴会トークやパーティーチャットでも上昇するため、探索することがパーティの強化につながりやすい。ショップの店頭で見かけたアイテムをその場でキャラクターにプレゼントして絆レベルを上げられる場合もあった。

絆レベルが一定のレベルまで上がると、それぞれの仲間の抱える問題に向き合う「絆ドラマ」が発生。絆ドラマは相談された内容にふさわしいと思う回答を選んでいく形式になっているため、春日や桐生になりきるロールプレイという面でも興味深いシステムだ。絆ドラマは段階的に進んでいく。

キャラクターの悩みを聞いて解決に導く「絆ドラマ」。
春日と桐生による連携攻撃。

キャラクターのジョブの変更にも絆レベルが必要になってくる。そのため、プレイすればするほどキャラクターをカスタマイズできる幅が広がる印象だ。春日の「勇者」や桐生の「堂島の龍」など、そのキャラクター固有のジョブを極めるのもいいが、「マリンマスター」や「ハウスキーパー」などのジョブを試してみるのもいい。名前を聞いただけでは強さがわかりにくいジョブもあるが、基本ステータスや習得可能な技が事前にある程度わかるのが親切だ。

そのジョブに就いているときにしか使えない技は存在するものの、絆レベルによっては別のジョブでも使えるようになる。技を持ってくることができない場合でもHPやMPなどのステータス上昇効果は転職後も反映されるので、できる限り多くのジョブを経験しておくといいだろう。

桐生の固有ジョブ「堂島の龍」。
1つのジョブを極めることで強力な技も習得可能。

自由移動からの範囲攻撃が爽快なバトル

「新ライブコマンドRPGバトル」と銘打たれた本作のバトルは、キャラクターを一定距離内で自由に移動して攻撃できるようになった。接近してから攻撃すると発生する近接ボーナスや背後から攻撃することで発生するバックアタックで大ダメージを狙うことができる。キャラクターが手にしている武器のほかに、フィールドに落ちている看板や自転車などで攻撃することも可能。落ちているもので攻撃する仕組みは前作からあったものの、自由に移動できるようになった本作では意図的に狙っていくことができるようになっている。

通常攻撃とキャラクターが習得した技を繰り出していく本作のバトルだが、いわゆる範囲攻撃技の利便性が格段に向上した。前作よりも射程範囲がわかりやすく表示されるようになったほか、周囲を蹴散らすものから一直線に敵をなぎ倒すものまで範囲攻撃技の種類が増えている。自由移動と使い勝手のよくなった範囲攻撃は本作のバトルで最も魅力的なものだ。敵味方の位置関係を見て効果的な技を繰り出し、一網打尽できたときの爽快感がたまらない。

技の使用はMPを消費するが、バトル中でも通常攻撃である程度回復させることが可能だ。このことは積極的に技を使っていく気持ちにさせる。絆レベルを上げた状態で発生する追撃攻撃や連携攻撃でもMPは回復するので、パーティを強化すればするほど派手な展開が生まれやすいのもいいところだ。春日たちよりレベルが格段に低い敵とエンカウントしたときに、バトルを一瞬で終わらせるクイックバトルも新たに搭載された。着実に強くなっている実感を与えつつ、テンポのよさにも繋がっているクイックバトルの導入は称賛されるべきだろう。

ターン制コマンドバトルであるものの、アクションの要素も備わっている。技を繰り出す際にコマンドを入力することで威力が向上する「ジャストアクション」は前作からあったが、本作でも健在だ。コマンドを入力、といってもタイミングよくボタンを押すものや連打などの簡易的なものとなっている。

フィールドに落ちているもので攻撃することも可能。
雑魚敵を即撃破できるクイックバトル。

本作で最もアクション性が高いのは桐生の「絆覚醒」だ。絆覚醒は桐生が一定時間自由に移動して、アクション操作で攻撃を叩き込むことができるものだ。ターン制コマンドバトルという概念そのものを無視して敵をなぎ倒す桐生の姿には、興奮させられるというほかない。桐生の絆覚醒だけで勝ち抜いていけるほど頻繁に使用できるものではないが、ほかの技では得られない爽快感に満ちている。

桐生の専用ジョブ「堂島の龍」もまた、シリーズの顔役を務めてきた桐生ならではの特別感がある。「ヤクザ」、「ラッシュ」、「壊し屋」の3つのスタイルを状況に合わせて使い分けていく独自のプレイフィールがある。ヤクザのスタイルをベースにしつつも、ときには攻撃力は控え目ながらも連続行動できるラッシュで残りHPの少ない敵を狙ったり、守りを固める敵を壊し屋で投げ飛ばしてガードブレイクを狙ったりといった形だ。アクションアドベンチャーゲームとして、桐生とともに築き上げてきた「龍が如く」のエッセンスが取り入れられている。自由移動できるようになったターン制コマンドバトルとアクションの融合こそが、「龍が如く」のたどり着いたバトルシステムだ。

ダブル主人公の醍醐味たっぷりのストーリー

「龍が如く」のストーリーの魅力とは何だろうか。これまでは、極道組織に代表される裏社会の出来事が大胆に描かれてきた。組織で成り上がろうとする男たちの野心をはじめ、信頼や裏切りなどの人間ドラマが大きな魅力となっていたのは間違いない。ところが前作の『龍が如く7 光と闇の行方』で日本の2大極道組織が解散したこともあり、本作のストーリーにおける最大の見どころは別のものとなっている。

本作の冒頭で春日はかつて兄貴分だった沢城丈の依頼を受けて、とある人物に会うためにハワイ・ホノルルシティへと飛ぶ。次から次へと巻き起こる事件のなかで、春日は桐生と再会する。ダブル主人公によるハワイの冒険は新鮮なものがあるが、正直なところ春日と桐生の組み合わせは強すぎる。前作で華々しく活躍した春日に、裏社会の伝説である桐生が味方に付けば負ける気がしない。敵対するキャラクターの事情や強さはそれなりのものがあるものの、過去作ほどのカリスマを持った相手はいなかったように思う。

ここぞという場面で相手の心を虜にする春日一番。
伝説の極道としての矜持を持つ桐生一馬。

敵キャラクターが魅力に欠けているとはいえ、裏社会を垣間見るという要素は『龍が如く8』のストーリーにもある。ネタバレを避けるために詳細は控えるが、現代社会の抱える問題点に踏み込んだストーリーとなっている。「龍が如く」のエンターテイメントの世界観を原則としつつも、時代を映す鏡として現代社会の問題点に切り込んだことは評価したい。バトルの難易度は高くないが、それは連戦が続く前に推奨レベルを教えてくれたからだろう。レベル上げに適したダンジョンが街に用意されているため、そちらをプレイしておけば行き詰まることはないはずだ。

本作はこれまで以上に春日一番と桐生一馬の内面を描き出しているのが最大のポイントだ。前作の活躍により「ハマの英雄」とまで呼ばれるようになった春日が、再びどん底に落ちたらどのように振る舞うのか。「堂島の龍」とまで称された桐生が、死を覚悟したときはどのような最期を望むのか。春日と桐生はしばらく行動をともにするが、やがて2チームに分かれてストーリーが展開されていく。ハワイでの春日チームと日本での桐生チームに分かれたところから、ダブル主人公の醍醐味的なストーリーが加速度的に盛り上がってくる。

ハワイの春日チーム。
日本の桐生チーム。

本格的にダブル主人公へ切り替わった時点で、桐生専用のコンテンツが開放される。人生を振り返り、残された時間の使い方を考える「エンディングノート」がそれだ。過去作での出来事や登場したキャラクターを桐生の視点から振り返る特別なコンテンツとなっている。桐生で東京・神室町や横浜・伊勢佐木異人町を探索することが可能で、ゆかりのある場所に行くことで桐生の思いが垣間見える「追憶ダイアリー」が発生する。過去作を知っていれば知っているほど、思い出に浸ることのできるものだ。

エンディングノートを充実させることで、桐生専用のパラメータ「覚醒度」が上がっていく。覚醒度は桐生の固有ジョブ「堂島の龍」の強さに直結する。死に瀕した桐生が過去を振り返ることで強さを取り戻していくだけでエモーショナルなものだが、一定値まで覚醒度を上げることで桐生が旧知のキャラクターの現在を窺い知る「エンディングドラマ」を見ることができる。過去を振り返りつつも、成長を遂げたキャラクターの今を知って桐生はどう思うのか。桐生自身の言葉で紡がれる想いは、一つひとつが重要なものとなっている。

桐生ゆかりの場所やキャラクターを振り返る追憶ダイアリー。
エンディングノートで気力を取り戻していくような桐生の姿も。

過去を振り返ることで自分を見つめ直す。桐生がそれをできるようになったのは本人の資質だけではない。長年にわたって相棒を務めてきた刑事の伊達の働きかけによるところが大きいが、本作で春日一番とハワイを冒険したことにも影響を受けているだろう。まるで諦めたかのように自分の死を受け入れていた桐生は、エンディングノートに取り組むことで変わっていく。本来的に素直な桐生の性格もあるが、春日とともに冒険したことも影響しているのではないか。

「龍が如く」を象徴する2人の主人公。

本作のボリュームは圧倒的で、メインストーリーに注力してもクリアまで約80時間かかるだろう。寄り道もまた「龍が如く」の魅力的なところなので、サブストーリーやエンディングノートもプレイしておくとクリアしたときの感動はひとしおだ。桐生一馬と春日一番のダブル主人公で描かれる『龍が如く8』は、シリーズの集大成となっている。

長所

  • シリーズを象徴するダブル主人公で描かれるストーリー
  • 自由に移動可能になったターン制コマンドバトル
  • 密度の高い街の作り込み
  • 圧倒的なボリューム

短所

  • 魅力に欠ける敵キャラクター

総評

『龍が如く8』はターン制コマンドバトルのRPGとして極めて完成度の高い作品だ。キャラクターが自由に移動できるようになったことで、高い戦略性と爽快感あふれるバトルを実現している。圧倒的なスケールで描かれる新舞台のハワイは作り込まれており、探索し尽くせないほどだ。敵キャラクターの魅力が欠けているものの、春日と桐生のダブル主人公を描ききったストーリーはシリーズの集大成といえる出来となっている。

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『龍が如く8』レビュー!ダブル主人公の活躍を初の海外舞台となるハワイで描くシリーズの集大成的作品

9
Amazing
前作から導入されたターン制コマンドバトルを丁寧に磨き上げたRPG。戦略性とアクション性を両立したターン制コマンドバトルの「龍が如く」として新境地を開いた。春日と仲間が海外旅行しているかのような感覚のあるハワイは圧倒的なスケールで描かれている。敵キャラクターは過去作と比べて魅力に欠けているものの、死期を悟った桐生と過去を振り返るストーリーは大きな見どころとなっている。
龍が如く8