『IXION』プレイレポート 21世紀のクラシックSFにセンス・オブ・ワンダーはあるか?

不慮の事故で人類滅亡 スペースランナウェイ・コロニーシム

『IXION』プレイレポート 21世紀のクラシックSFにセンス・オブ・ワンダーはあるか?
※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください

自走式スペースコロニー「タイクーン号」は人類初のFTL航行「VOHLEジャンプ」で閃光とともに消え去った。そして月は砕け散り、地球は破局を迎えた。海は涸れ、地は荒れ果て、あらゆる生命が絶滅したかに見えた。だが、人類は死滅していなかった。

衝撃的なアナウンストレーラーで注目を集めた『IXION』は、宇宙が舞台のサバイバル・コロニーシムだ。極限環境で街の指導者となる『Frostpunk』のフォロワー作だと思えばよい。プレイヤーはタイクーン号のリーダー「管理者」となり、宇宙的天涯孤独のクルーたちを居住可能惑星「レムス」へ導く。本作は物語主導のゲーム展開で、新天地を目指して星々を渡り歩く。ステージクリア制でゴールを目指す、攻めるサバイバルである。

プロローグ(DEMO版プレイ範囲)で好感を得たSFファンは多かろう。筆者もそのひとりだ。特に、スペースコロニーのビジュアルには圧倒された。意匠を込めた細かなディテールで巨大建造物の存在感をかもしだす。サウンドトラックも聴き応えがあり、スペースコロニーのシチュエーションをメロディに仕立てたのがすばらしい。FTLジャンプのムービーシーンを飾る「Vanir's Legacy」は壮大かつ重厚、人類の偉大な一歩を飾るにふさわしい曲だ。

本稿は製品版のプレイレポートである。本作の訴求対象を想定し、レポートの焦点をこの一文とする。『IXION』のセンス・オブ・ワンダー(SFでしか得られない体験)は何か? 本作は科学理論とその実証をストーリーの主軸においた「ハードSF」ではない。SFガジェットをストーリーテリングで披露する「スペースオペラ」でもない。どちらかと言えばクラシックなテーマだ。人類はいかに宇宙へ適応するか?

さあ、ゲームはスタートした。第1章は未来の太陽系から始まる。VOHLEジャンプの失敗でタイクーン号は未来にタイムスリップした。人類は文明の痕跡を残すのみで、迎える者は誰ひとりいない。タイクーン号のせいで地球は滅びてしまったのだ。200人弱のクルーは重度のトラウマ症状、通称「地球病」で苦しみ始めた。人類生存の道は星々の海を渡る超光速グレートジャーニーにかかっている。

絶望から希望へ出発進行

『IXION』のコアメカニクスはフォロー元の『Frostpunk』と同じだ。ゲームは都市の内部・外部に分かれる。内部で都市の設計・運営を、外部で資源採集の遠征隊を指揮する。本稿では便宜上、スペースコロニー内部画面を都市マップ、タイクーン号や天体を見下ろす宇宙画面を星系マップとする。両マップでトラブルが盛り沢山だ。

タイクーン号はおもにふたつの資源でサバイバルを強いられる。ひとつは定番の食料で、序盤は電力だけでまかなえる昆虫牧場が生命線となる。もうひとつは、スペースコロニー外殻の修理に用いる合金だ。合金は都市マップの製鉄所で鉄から生成し、鉄は星系マップから採掘・輸送する。他の資源も同様に原材料から工場で生成する。外殻は常に壊れ続けるので、原材料の収集と工場の稼働がクルーたちの仕事となる。

都市マップは『シムシティ』調の四角マスでなじみやすい。施設と倉庫を道路でつなぐだけでオーケーだ。ほどなくして問題が発生し、技術研究で解決する。電力不足は、EVAエアロックを研究しソーラーパネルを船殻に取り付ける。労働者不足は、冷凍冬眠蘇生を研究し冬眠カプセルの難民を蘇生する。ゲーム中盤でクルーは1000人を越え、住居・食糧問題は最後まで尽きない。クルーを宇宙から守る技術研究が、人類の宇宙適応を描くストーリーの1面だ。

ストーリーのもう1面は星系マップにある。探査プローブを飛ばしてマップ上の原材料を探すと、異常信号も検出する。信号源は天体、小さなものは人工物で、小型船を派遣するとクエストが発生する。クエストクリアで惑星レムスへの手掛かりを得て、出発準備が整えばステージクリアだ。第1章の太陽系ではおなじみの惑星を巡り、地球滅亡後の人類がどうなったかを知る。放棄された惑星施設や、廃虚となった宇宙ステーションで何が起きたのか。調査で研究ポイントを入手し、技術研究を進めよう。

タイクーン号の調子を整えたい。異常信号をくまなく探したい。ここで立ちはだかるのがゲームオーバー条件だ。タイクーン号は耐久度がゼロになると大破する。クルーの信頼度がゼロになると管理者は排除される。後者の信頼度にかかわる不満要因は数多い。もっとも大きな要因は地球病の悪化で、星系脱出というステージクリアに時間をかけすぎると発症する。

以上のルールがゲームプレイの構成だ。プレイヤーは地球病の悪化というタイムリミットに追われている。ステージクリアにかかわる星系マップのクエストは大量の資源を要する。よって、都市マップで資源の生産量を増やさねばならない。生産量を意識すると焦燥感は募り、ストーリーに緊張感を加え、ステージクリアで開放感へ昇華する。星系脱出のFTLジャンプはさながら、TVドラマの1話をしめくくるかのような心地よさだ。

第1章のあらすじを紹介しよう。無人の太陽系にFTL航行の失敗と、タイクーン号は宇宙的に座礁したと同然であった。絶望の中でも諦めずに人類文明の痕跡を調査し、タイクーン号の後継機「プロタゴラス号」が太陽系を脱出したと知る。改良型VOHLEジャンプ「IXIONエンジン」を発見し、突貫工事で取り付け、タイクーン号は太陽系を脱出した。そして次の星系で未知の宇宙と向き合うことになる。人類は宇宙に適応し続けねばならない。

人間性チェックはもうコリゴリ

大ざっぱに言えば、『Frostpank』にステージクリアという物語の緩急を加えたのが『IXION』だ。本作の独自性はストーリーを描くイベント群の傾向にある。フォロー元はサバイバルにおける倫理・道徳がテーマだ。少数を切り捨て大数を生かす、命の選択を幾度も強いられる。一方、本作のイベント群には湿っぽい人間性チェックがない。

ストーリークエストがある星系マップは、希望に満ちたニュースが次々と舞い込んでくる。プロタゴラス号や国連の移民船団と会合し、残された者として意志を継ぐ。サブクエスト群は宇宙の神秘と驚異が目白押しだ。時空を越えた不思議な出来事。地球外知性体とのファーストコンタクト。すごく・ふしぎの数々で好奇心をかき立てる。人類最古の友、犬も見つかるぞ。これにはクルーも大喜びだ。

一方、都市マップのトラブルにはクルーの泣き落としや身の上話、悲鳴がない。それら要望・苦情は、アシスタントAIが受け取り反乱防止アドバイスへ変換する。そして管理者はセキュリティの都合でクルーに姿を見せない。だから都市マップがどんなにひどい状況でもドライに徹しきれる。管理者は生きていない、血も涙もないAIだ。と、ウワサにあがるほどである。

星系・都市マップのイベントをいくつか目にすると異質さに気付く。人間の弱さを生々しく描かないのだ。サバイバルものとしては見どころに欠けるが、筆者はテーマを意図したつくりだと受け取った。本作は人間の内的世界ではなく宇宙の外的環境に目を向けている。

宇宙への適応というテーマに対し、思想や哲学といった心の持ちようではなく、科学の進歩でアプローチしていくのである。ところが。宇宙へ適応しなくてはいけない理由は、科学の進歩が地球環境の悪化をまねいたからだ。テーマとアプローチの二律背反はひとつの答えに昇華する。

「もしも、科学の進歩をやり直せるなら」 そしてタイクーン号はやり直すために惑星レムスを目指している。イベント群から人間性チェックをはぶいたことで、サバイバルの外的環境へ注目をうながしたのは小気味よい。

期待と焦燥に満ちた宇宙

前章で述べたとおり、イベント群の傾向がテーマ解釈の鍵だと筆者は考える。これはエンディングから旅路を振り返って得た見解で、ストーリー途中はパンチが弱く思えた。有能な人間を厳しい現実で押しつぶした絞り汁、いわゆる文学性が足りないのだ。幸い、プレイ動機はゲームプレイが補ってくれた。本作の美点はゲーム難度の段階的な上昇にある。

シティビルダーとコロニーシムはどちらも街や村をつくるが、前者は計画、後者は運用を重視する。本作は後者に当たり、ゲーム中のプレイヤー役職「管理者」にピッタリだ。都市マップはドーナツ状で6つのセクターに分かれ、セクター開放で都市マップが増える。資源生産量の増加に役立つが、セクター間のクルー・資源管理は手動操作を要する。操作を怠ると資源不足が連鎖したデッドロックに陥るのだ。セクター数が増えるほどデッドロックの回避が難しくなる。

都市マップを隔てるセクター壁。セクター間のクルー移動は手動指示で、資源移動は自動化の融通が利かずこまめな管理を要する。

星系マップ上もステージが進むと難しくなる。第2章はスタート地点付近の原材料が乏しく、資源枯渇の対処を考えねばならない。第3章はデブリ群や磁気嵐といった宇宙天気ゾーンでダメージを受ける。その上、ステージクリアごとにタイクーン号は恒久的に損傷し耐久度の最大値が減少するのだ。ゲーム終盤は致命的な環境が待ち構えている。ゲーム序盤で事故の対処を学び、不運への備えを進めよう。

星系マップを隔てる宇宙天気。タイクーン号の外殻損傷が激しいエリアで、小型機はすぐに破壊される。

上記2種類の難度上昇を補強するのが星系マップの完全固定だ。原材料やクエストの配置でトラブルの発生時期を制御し、プレイヤーにほどよい緊張を与え続ける。クエストやトラブルの解決が短期目標となり、最後までやることリストは埋まっているからプレイングの迷子にならない。またゲーム敗北時はステージリトライでき、先のプレイで得た攻略情報をそのまま使える。コンティニュー込みで考えればちょうどいい難度だ。

物語は明るい未来への期待を語り、ゲームで厳しい現実をつきつける。プレイヤーにゲーム難度上昇という圧力をかけ、ビデオゲームならではの文学性――非言語ストーリー体験としたのだ。ゲームクリアまでサバイバルし続ける計画と運用の繰り返しが、テーマへのアプローチと合致し人類の宇宙適応に納得感をもたらしている。

未来と将来の違い

地球滅亡という衝撃的なプロローグに対し、ストーリー行程は驚くほど建設的だ。けれん味に欠けるとすら言える。シンギュラリティへ到達したり、事象の地平線を越えたり、過去へ戻ることも宇宙を創造することもない。現状の延長線を一歩ずつ着実に歩み続ける。そしてプレイヤーがストーリーに意思決定を下すのは最終章の1回のみだ。その選択に本作のテーマが宿っている。

ネタバレ注意:以下でエンディングの内容を取り扱うため、プレイを予定するゲーマーはクリア後に読まれたし。


最終章の選択で物語の結末が決まる。エンディングは2種類あり、ひとつは未来へ合流する。タイクーン号のあとで地球を脱出した別の人類グループに加わり、自然と調和したユートピアで暮らす。地球の環境問題を全て解決した、科学進歩のやり直しに成功したゴールがそこにある。

もうひとつのエンディングはアンロック条件に優れたプレイングを要する。1周目の攻略情報を生かした2周目で条件を満たせるだろう。物語の結末は現状の延長で、無人の惑星にコロニーを築く。膨大な資源と人員を要し、失敗に終わるかもしれない。サバイバルの舞台が宇宙から惑星になっただけで、今後も定かではない。ちなみに犬生存エンドである。

ふたつのエンディングで描いたのは未来と将来の違いだ。第1章のタイムスリップが未来への合流を可能とした。一方、タイクーン号内部の時間を連続すると将来へ到達する。この未来と将来の対比がストーリーとゲームプレイに意義を加えた。「人類はサバイバルの繰り返しで宇宙に適応していく」と、メッセージを発しているのだ。

本当にそうか? 1周クリアに20時間以上かかるうえ、ステージ分岐がなくプレイ体験の重複をまねいている。ビデオゲームとして品評するなら欠点要素だ。ストーリー中の物語描写や背景説明が不足気味で、遠未来エンド単品が御都合主義の結末に見えるのもいただけない。

万人受けする話のつくりではないが、『IXION』には超光速グレートジャーニーならではのSFがある。外的環境すなわち星々に目を向け、とどまることなく科学の進歩を続ける。と、いうクラシックなセンス・オブ・ワンダーが。それは宇宙開発競争にロマンを抱いた時代の残り香めいて…… 懐かしさとともに、そうありたいと夢想させてくれた。

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください
In This Article
  • Platform / Topic