アサシン クリード ミラージュ - レビュー

10年ほど見ることができなかった本来の「アサシン クリード」を蘇らせる気概がある

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2007年には最初のiPhoneが発売され、スーパーボウルのハーフタイムショーではプリンスが「パープル・レイン」を(本当に大雨が降る中)披露していた。初代『アサシン クリード』は同年に発売され、ビデオゲーム界に恒久的な変化をもたらすことになる。当時のレビュアーたちの評価は賛否両論であり、Ubisoftが提示した新たなアクションやステルス要素はすべての人に受け入れられたわけではないが、本作に光る部分があるとは大勢が認めていた。それから15年以上経過し、「アサシン クリード」シリーズには大量の続編が生まれていったが。だが、ほかの大掛かりで派手な要素を追加するかわりに、ステルス主体の内容からは逸れていき、「アサシン クリード」の根本を見失ってしまったように見えた。『アサシン クリード ミラージュ』では原点回帰を目指すべく、完璧とは言えないながらもゲーム内容に多くの変更が施された。本作では斬新な要素こそないが、任務から任務への進行が無駄ない形で行われ、ステルスを駆使した探索を存分に楽しめるようになっている。これらは、RPG要素が大きくなった昨今のシリーズ作品では体験しにくくなっていた部分だ。「ミラージュ」は、まったく新たな分野にチャレンジしたタイトルではない。それでもこの作品には、10年ほど見ることができなかった本来の「アサシン クリード」を蘇らせる気概がある。

原点回帰を目指す「ミラージュ」では、ステルスがもっとも大事な要素である。本作では経験値やレベルといった成長要素が廃止されたため、うまく立ち回ればどんな敵でもプレイヤーの進行度にかかわらず始末できる。ほとんどのエリアには隠れるための手段が豊富に用意されており、本作で再登場を果たしたワシを使えば空から敵の位置をくまなく見て次の行動に備えられる。良い装備や報酬を得るためにひたすら敵を殺していくのではなく、状況判断しながら自分の装備を駆使して任務に挑む必要があるのは、久しぶりの体験であった。牢獄や海岸の砦のような敵拠点には、大量の衛兵がいるうえに孤立することなく巡回している。ゲーム序盤では複数の敵兵と同時に戦うのは危険すぎるため、暗闇にしっかり隠れ、タイミングよく動き、環境を活かすことが目標にたどり着くために必須である。すぐ切れるロープで吊られている貨物や、都合よく置かれた香辛料袋などの環境物を使えば衛兵をかく乱することができるが、『アサシン クリード オリジンズ』以前の「アサシン クリード」作品をプレイしたときと比べても、「ミラージュ」ではこういった環境物を最大限に利用していることに私は気づいた。

『アサシン クリード ヴァルハラ』のDLCをすべて遊んだ私だが、エイヴォルとレイラにとって敵か味方なのか謎である人物「バシム」の過去にまつわる物語をぜひ知りたいとは、1度も思ったことがなかった。バシムが主人公となる「ミラージュ」ではもう20時間ほどかけて彼の人物像を理解するために動いているが、本作の物語にはバシムに対する先入観を覆すほどの魅力はない。バシムは優しい心を持つスリ師だったが、復讐を目的とした暗殺者へと豹変する...... という筋書きだが、この「隠れし者」の物語はシリーズ中でも展開があまりにも早すぎる。死んだ仲間たちの血が乾ききるよりも早く、バシムは牧草の山に飛び込む術を覚えてしまい、自分の指を切り落として暗殺者の仲間入りだ。バシムはゴールデンレトリバーのように臆病だが温厚な男であり、社交面でも優しい印象を強く残すし、そこまで葛藤することなく正しい道を進むことができる。主人公としては大きな欠点もなければそこまで印象に残るキャラクターでもないが、その後の「ヴァルハラ」で登場するバシルは、裏切りに裏切りを重ねる狡猾な人物だ。この激しい変化についてはやはり理解に苦しんでしまう。

『ウィッチャー3 ワイルドハント』に影響を受けている昨今のゲームと比べると、バシムの物語はかなり短く、選択肢も多くないリニアな展開だ。だが冒険の楽しさという面から見れば、このそこまで長くない物語はちょうどよいのだ。主人公の任務は調査画面の中から始まり、この画面では手がかりや証拠が網のように広がっており、標的キャラクターへそれらがつながっている。まずは地域の反乱軍リーダーを見つけたり、連続誘拐事件を解決するなどして小さな目標をクリアしていくのだが、そこから大きな事実が明らかになっていく。このように捜査の網はどんどん大きくなっていき、その終端に位置する標的は街で暗躍を続ける黒幕組織の一員だ。好きな順で任務や目標ををこなしていけるため、調査画面で任務を確認して遂行していくのは、実際のゲーム設計以上に自由度があるように感じられる。こういった任務はほぼすべて終わらせる必要があるのだが、調査画面上で物語がわかりやすく分割されており、自分が任務を行う理由などをすぐに理解できる。本作の物語は早いペースで進んでいくため、この調査画面で確認できるシステムは実に便利だ。

バシムの物語はかなり短く、選択肢も多くないリニアな展開だ。だが冒険の楽しさという面から見れば、このそこまで長くない物語はちょうどよい

進む方向自体はしっかりしているが、バシム自身の物語はほかのシリーズ作品と比べて残念に感じる部分が多い。バシムを暗殺者へと進ませ、復讐に向けて動かし、より大きな使命を担わせる...... というストーリー構成は過去作品でも見ることができたし、よりうまくプレイヤーの心を掴んでくるものだった。ゲーム終盤の4時間くらいをのぞいて、黒幕の「古き結社」の重要人物を始末する過程は予想がつくようなものだった。各幹部とその手下は組織を裏切るようなことなどせず、あからさまに邪悪で冷酷な連中ばかりである。プレイヤーが暗殺するべきキャラクターを単純な悪として描くことには問題はない。それでも、ヘイザム・ケンウェイのように複雑な面を持っていたり、不気味な笑みを浮かべるロドリゴ・ボルジアのような悪役を今回は見れなかったのは少し残念である。

バシムの仲間となるキャラクターも似たように、印象に残らない者が多い。ほかの「アサシン クリード」作品でも幾度と見たように、「正義のために秘密裏に活動する」人物ばかりだ。なお、バシムの師であるロシャンはショーレ・アグダシュルーが演じており、彼女は持ち味であるしゃがれ声を駆使してロシャンに存在感を与えられている(註:日本語版では野沢由香里が、同様に特徴的な声で演じている)。しかし、ロシャン以外の脇役たちはキャラクターとしても、演技を見ても「それなり」以上の感想は出ない。

本作で私が気に入った存在としては、キャラクターよりもバグダッドと周囲のエリアを挙げたい。とにかく人間が多くて騒々しい中心部から、砂で覆われたカリフのスラム街まで、この円形都市バグダッドにはさまざまな地区が存在する。「ユニティ」や「シンジケート」をのぞき、ここまで活気があり本当に人々が住んでいると実感できる舞台は今までのシリーズ作品になかったはずだ。街路では人混みにまぎれ、住宅が点在する区画では建物の間を縫うことで、追手から逃げることができるだろう。「ミラージュ」の手配度システムのおかげで、プレイヤーは頻繁に街中で逃走することになる。これはさまざまな形でエツィオ時代の「アサシン クリード」に回帰している仕様で、街中で騒ぎを起こすほどに追跡は執拗になる。街を支配するカリフの強硬な政策によって衛兵はあらゆる場所に存在しており、ただ走り回るだけでは追手から逃げるのは困難だ。もし隠れるのが無理なら、壁の手配書を破ったり、お触れ役に賄賂を渡せば悪名を緩和できるだろう。追手から逃げるためにプレイヤーは必死に動く必要が出てくるが、そのためにさまざまな方法がゲーム側から提示されているのはプレイしていて楽しい。

「ミラージュ」では実在の建造物や場所が登場するし、近年の「アサシン クリード」作品よりも、ゲーム内で歴史的建造物を発見できる機会が増えているようだ。これらに関する歴史的考証が過去作品よりも精確なのかについて、専門家ではない私は判断できない。しかし「ミラージュ」では、「オリジンズ」の3大ピラミッドや「オデッセイ」のアテナ像に挙げられるような、驚嘆してしまうほどの美しさを誇るモニュメントや景色を見つけることはできなかった。全体で見れば、波模様が広がる黄金の砂漠や樹木が生い茂るオアシスは美しい。それにバグダッド市街を探索して収集物を集めるのも、こういった要素を好むプレイヤーなら楽しめるだろう。Ubisoftは過去作よりも探索できるエリアを狭めることを選んだが、そのために世界の細かな部分を彩ることもできている。この方針変更は、成功に違いない。

「ミラージュ」におけるプレイヤーの道具は戦闘時にも使用できるが、ステルス時に真価を発揮する。道具の強化を進めれば射程範囲が伸びたり、驚くような追加効果が付与される。投げナイフで殺した敵の死体が分解されて消滅し、殺害がバレないようにしてくれる強化は、私のお気に入りだ。もちろん現実的とは到底言えないが、本当に便利である。バシムには連続ステルスキルを行う特殊能力もあり、これは「レッド・デッド・リデンプション」シリーズで登場する「デッドアイ」にかなり似ている。複数の敵をマーキングしたあと、全員をスタイリッシュで異様な形で瞬殺するのだ。なかなか単独行動しない衛兵たちをいっぺんに始末したり、普通に始末しようとすると発見され戦闘が避けられない標的が相手のときに便利な能力である。なお使用するにはステルスキルを行ってゲージを溜めていく必要があり、敵に見つかっていない状態でしか発動できないため、強力ではあるがゲームバランスは保たれている。

しかし「ミラージュ」で潜入する敵の拠点は、近年の作品で見られる場所よりもより印象深かったり、出来が優れているわけではない。「アサシン クリード」作品で一度でも敵拠点を攻略しているなら、建物内の長い通路、地下の入り江、強固な砦といった場所への潜入は体験済みだろう。衛兵は簡単に陽動できるし、ほかの衛兵の死体を見に行った際に背後からプレイヤーに楽々と殺されてしまうのも同じである。

「ミラージュ」は「Hitman」のようなステルスゲームからヒントを得た

敵拠点を攻略する際に、過去作品で使えた手法が「ミラージュ」で復活しているのは評価したい。商人に賄賂を払って商品を持たせてもらい、配達人のフリをしながら立ち入り禁止の関所を通過するのは、お気に入りの潜入法だった。後半の任務では、さまざまな立場の人々が裕福な標的が住む邸宅の庭で集まっていた。そこで奉公人たちが主人に対して反乱する手助けをすると、大きな騒ぎが起こり始め、標的はそこに引き付けられる。そして、プレイヤーが持つ刃の餌食になるというわけだ。このような戦略が使用できることで、本作の世界が本当に生きているように感じられるし、現実味も増してくる。また「ヒットマン」シリーズからの影響も大きいだろう。

隠れることを諦めて衛兵と戦う羽目になった際には、本作の戦闘はそこまで奥深くないもののやりがいはあると感じられる。バシムの戦闘スタイルはただひとつ。剣と短剣を手にし、すばやい弱攻撃と重たい強攻撃を組み合わせた数回の連続攻撃で、嵐のように敵を斬り殺していく。剣と短剣にはさまざまなタイプのものが用意されており、プレイヤーは装備する剣・短剣を選んでいける。各刀剣には独自の能力があり、例としては攻撃を受け流した際に時間を遅くする短剣(註:デラックスエディション、またはデラックスパックに収録されている「プリンス・オブ・ペルシャ」テーマの武器がもつ能力)や、連続攻撃をしていくと威力を高めていく剣などがある。数多くの刀剣が用意されているが、プレイスタイルを大きく変えるほどの性能の違いはないように私は感じられた。なお、ノーマルではなくより高い難易度で本作を遊ぶ際には、強化で長所を最大まで高めた一部の剣・短剣が重宝しそうだ。アーマーや武器を変えても物語が変化するわけではないため、私はゲームを有利にするために装備を切り替えることはまずなかった。一方、本作の多様な装備は着せ替え用と割り切れば優秀であり、自分がバシムの装備を頻繁に切り替えていたのはそれが理由だ。

過去の「アサシン クリード」作品に慣れた人間、特に前作「ヴァルハラ」では多彩な武器種や特殊攻撃を使ってきた者からすると、本作の戦闘のペースはかなり遅く感じるし、一撃一撃に重みがある。さらにカウンターや回避行動の重要性が増している上、敵の近接攻撃は喰らえば大ダメージな上に行動パターンが不規則な場合もまれにある...... ここまで書いたが、自分は本作の戦闘バランスを気に入っている。集団の敵は、仲間を斬り倒しているプレイヤーを黙って見ていることはせず、しっかりと協力して立ち向かってくる。そのためプレイヤーはうかつに連続攻撃を繰り出すと反撃を喰らいやすいし、3、4人以上の敵と戦おうとすればかなりの劣勢を強いられることとなる。

本作の敵の種類は非常に少ない。基本となるのは一般兵士、大柄で重鎧を着ており正面からではダメージを与えられない兵士、プレイヤーの悪い噂が最大まで高まった際にに派遣される精鋭兵士の3種類である。だが、敵が持つ武器によって動きに若干の違いが出てくる。たとえばメイスを持った重装兵士と、両手剣を持った重装兵士がいるなら、特徴が異なる強敵となるのだ。相手が持つ武器をかならず念頭に入れて戦う必要があるため、本作でもっと違った種類の敵が欲しいと思うようなことは自分はなかった。「ミラージュ」はゲームデザインのさまざまな部分で初期作品をなぞっているものの、今回の戦闘システムは変更点のなかでも非常に大きく、そして本作特有の要素であると感じられたし、私は本当に戦闘を楽しめている。

「ミラージュ」で大幅に簡素化されたスキルツリーだが、ここで得るスキルにはプレイヤーの立ち回り方を一変させる力がある。スキルのカテゴリは3種類で、それぞれ戦闘面・偵察面・装備面を強化する。各カテゴリには7つか8つのスキルしか用意されていないが、ひとつひとつのスキルが大きな効果を持つ。スキルの中には、ワシが任務目標や標的をさらに素早くマーキングできるなど、既存の能力をさらに強化するものもある。また敵の攻撃を回避すると同時に後ろに回り込むなど、昔の作品では標準装備だった能力もある。スキルポイントを消費してスキルを解放するのだが、どんなスキルを選択しても能力は確実に強化されるため、選択を間違えたと感じることは皆無だった。それにスキルツリーのリセットはいつでも可能なうえ、何かコストがかかるわけでもないため、新たなスキルビルドを試したいのならすぐにやり直せる設計になっている。

総評

シリーズの初期と同じく、ステルスがもっとも重要な要素となった『アサシン クリード ミラージュ』には残念な部分も見られるが、それ以外の長所には開発者たちのはっきりとした意思を感じられる。本作では総プレイ時間が短くなり、マップも小さくなり、収集品の数も減少し、戦闘も小規模なものとなり、装備の幅も狭まっているが、昨今の作品にはすべてを遊ぼうとすれば100時間以上を要するものもあり(「オデッセイ」、「ヴァルハラ」など)、「ミラージュ」のあえて小規模なスタイルは逆に新鮮である。単調に感じる物語、あまり個性のない登場人物たちなど、小規模であることによる弊害も確かにある。しかし物語がテンポよく進み、わかりやすい形でクエストが進行していくのは褒められることだ。本作の舞台には度肝を抜かれるような絶景や建築物はないかもしれないが、バグダッドはやはり美しい場所である。世界の細かい部分にも手が行き届いており、あらゆる街路や建物はすみずみまで描写され、住人たちの歴史を感じ取れそうなほどだ。「ミラージュ」は、「アサシン クリード」シリーズから距離を置いてしまった人々へこそオススメできる作品である。原点回帰を目指した本作では、シリーズ初期作品で味わえたプレイ感覚をしっかりと蘇らせているのだから。

※本記事はIGNの英語記事にもとづいて作成されています。

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『アサシン クリード ミラージュ』レビュー 10年ほど見ることができなかった本来の「アサシン クリード」を蘇らせる気概がある

8
Great
原点回帰を目指した『アサシン クリード ミラージュ』では、シリーズ当初のようなステルス主体のゲームプレイを蘇らせることに成功した。
アサシン クリード ミラージュ